マーケティングプロセスとは、マーケティング戦略の立案から実行までの一連の流れのことです。マーケティングの基本的な手順や各工程の内容を理解しておけば、戦略の精度を高めることができます。本記事では、代表的なマーケティングプロセスとして知られる「R-STP-MM-I-C」に沿って戦略策定の流れを解説します。
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マーケティングプロセスとは
マーケティングの戦略や戦術は、「誰に・何を・どこで・どのように売るのか」を明確にすることで策定します。それらを検討・決定して実行するまでの一連の流れがマーケティングプロセスです。
マーケティングプロセスには様々な考え方がありますが、米国の経営学者で「現代マーケティングの父」と称されるフィリップ・コトラー氏が提唱した「R-STP-MM-I-C」が代表的なプロセスとして知られています。
R-STP-MM-I-Cは各工程の頭文字をとったものです。市場環境を理解して参入する市場を決める「戦略的プロセス(R-STP)」と、マーケティングミックスの観点から具体的な施策を立案し実行する「戦術的プロセス(MM-I-C)」に大別されます。
具体的なプロセスの概要を以下にまとめました。
<R-STP-MM-I-Cの概要>
戦略的プロセス | R | Research(調査) ・マクロ環境分析 ・ミクロ環境分析 |
STP | STP分析 ・セグメンテーション ・ターゲット ・ポジショニング |
|
戦術的プロセス | MM | Marketing Mix(マーケティングミックス:4P/4C) ・製品/顧客ソリューション ・価格/顧客コスト ・プロモーション/コミュニケーション ・流通/利便性 |
I | Implementation(実行) | |
C | Control(管理) |
各工程の内容について、次章より順に解説します。
戦略的プロセス「R-STP」
戦略的プロセスでは調査とSTP分析を行い、事業目標を達成するために「どの市場で、どのような商品・サービスを売るのか」を決定します。
R:Research(調査)
マーケティングプロセスで最初に行うのが調査です。自社を取り巻く環境についてさまざまな観点から調査・情報取集を行い、市場の構造や自社の強み・弱みなどを分析します。
調査のフェーズでは、基本的に「マクロ環境」と「ミクロ環境」に分けて調査・分析を進めます。
マクロ環境分析
マクロ環境分析とは、企業活動に影響を与える外部的な要因を分析することです。自社ではコントロールできない様々な要因を整理し、それらが事業にどのような影響を与えるのかを予測します。
マクロ環境分析では、政治・経済・社会・技術の頭文字をとった「PEST分析」のフレームワークを用いるのが基本です。
<PEST分析の要素>
Politics(政治的要因) | 市場の競争ルールを変える要因 例:法律、法改正、税制改正、政治動向など |
Economy(経済的要因) | 売上やコスト、価格に影響を与える要因 例:経済成長率、株価、物価、消費動向など |
Society(社会的要因) | 買い手のライフスタイルやニーズに影響を与える要因 例:人口動態、流行、教育、宗教など |
Technology(技術的要因) | 商品開発や生産などに影響を与える技術的な要因 例:インフラ、新技術の開発、特許など |
ミクロ環境分析
ミクロ環境分析とは、自社のビジネスに直接影響を与える要因を分析することです。代表的な分析手法としては「ファイブフォース(5F)分析」が挙げられます。
ファイブフォース分析は、自社にとっての5つの脅威(Force)を洗い出し、業界の競争環境や自社の優位性の有無などを把握する手法です。
<5つの脅威>
新規参入者 | 業界に新規参入する企業による脅威 |
既存の競合他社 | 競合他社が自社の売上・シェアやブランド力に影響を与える脅威 |
代替品 | 自社商品と同等の価値を提供する他社の代替商品が現れる脅威 |
買い手の交渉力 | 自社の顧客(買い手)の取引における力関係 |
売り手の交渉力 | 自社と仕入れ先(売り手)の取引における力関係 |
なお、ミクロ環境分析では以下の手法も用いられます。
- VRIO分析:企業の内部要因を4つの観点(経済価値・希少性・模倣困難性・組織)から分析する手法
- バリューチェーン分析:原料調達・製造から流通・販売までの一連の事業活動を分析し、各工程の価値や課題を把握する手法
自社のビジネス特性や課題に合った手法で自社を取り巻く環境を分析してみましょう。
「SWOT分析」で情報を整理
市場分析の結果を整理するうえで役立つのが「SWOT分析」です。SWOT分析は「Strength(強み)」「Weakness(弱み)」「Opportunity(機会)」「Threat(脅威)」の頭文字をとった手法で、4つの要素に分類することで戦略立案に役立てます。
<SWOT分析>
内部要因 | Strength(強み) | 自社の長所や得意とすることなど、内部環境におけるプラス要素 |
Weakness(弱み) | 自社の短所や苦手とすることなど、内部環境におけるマイナス要素 | |
外部要因 | Opportunity(機会) | 社会や市場の変化など、自社に有利になる外部環境のプラス要素 |
Threat(脅威) | 自社に悪影響を及ぼすリスクがある外部環境のマイナス要素 |
市場分析で得た情報をSWOT分析で整理し、自社の現状や今後の事業可能性について理解を深めましょう。
STP分析
次に、市場環境の調査・分析の結果をふまえて「STP分析」を行います。STP分析は自社にとって有利な市場を選定するためのフレームワークで、以下の3つに分けて検討します。
- Segmentaion(セグメンテーション):市場の細分化
- Targeting(ターゲティング):標的市場の選定
- Positioning(ポジショニング):自社の立ち位置の明確化
ひとつずつ見ていきましょう。
セグメンテーション
セグメンテーションとは、共通した属性やニーズをもつ顧客を分類して市場を細分化(分割)することです。自社が狙うべき市場を選定する前準備の工程で、主に4つの指標を用います。
デモグラフィック
(人口動態変数) |
基本的な属性情報に基づく指標 例:年齢、性別、家族構成、職業など |
ジオグラフィック
(地理的変数) |
地理的な要因に基づく指標 例:国、地域、気候、文化、慣習など |
サイコグラフィック
(心理的変数) |
生活者(顧客)の心理に基づいた指標 例:ライフスタイル、価値観、性格、趣味など |
ビヘイビアル
(行動変数) |
生活者(顧客)の購買行動に基づいた指標 例:認知の有無、購買回数、購買頻度、購買動機など |
ただし、セグメンテーションの指標は個人を対象としたBtoCを前提としているため、法人を対象とするBtoBでは「企業」や「担当者」に置き換えて考える必要があります。
BtoBにおいては、下記6つの項目に絞ることも可能です。
<BtoBの主なセグメント項目>
- 企業規模:資本金や従業員数、売上高など
- 業界・業種:商品・サービスとの親和性
- 所在地:本社や支店、店舗がある地域
- 決裁権:担当者の役職、決裁権の有無など
- 購入歴:自社または他社の商品の購入経験や購買頻度など
- 課題・ニーズ:事業や業務プロセスにおける課題
ターゲティング
ターゲティングは、細分化した市場の中から狙うべき顧客層を選定するプロセスです。
自社にとって旨みのある顧客層を見極めるうえで役立つのが、下記6つの観点です。それぞれの頭文字をとって「6R」と呼ばれています。
<6R>
- Realistic scale(市場規模の妥当性)
- Rate of growth(市場の成長性)
- Rival(競合の状況)
- Rank(顧客の優先順位)
- Reach(地理的な到達可能性)
- Response(販促効果の測定可能性)
また、ターゲティングの考え方には「無差別型」「差別型」「集中型」の3パターンがあります。
<3つのターゲティング>
無差別型マーケティング | 細分化した市場を考慮せず、すべての顧客層に同じ商品・サービスを展開する手法。資金力があり、汎用性の高い商材を扱う企業に適している。 |
---|---|
差別型マーケティング | 細分化した市場ごとに異なる商品・サービスを提供する手法。各顧客層のニーズに合ったきめ細やかな商品や料金プランを打ち出すことができる。 |
集中型マーケティング | 特定の市場に絞って集中的にアプローチをかける手法。コアなニーズをもつ顧客層を獲得・ファン化しやすい。 |
マーケティングの成果はどの顧客層をターゲットとするかで変わってくるため、上記の考え方をもとに慎重に検討しましょう。
ポジショニング
ポジショニングは、選定した市場における自社の立ち位置を明確にするプロセスです。
すでに複数の競合他社が存在している市場では、自社独自の特徴やメリットを訴求してターゲットに「他社商品にはない価値がある」と認識してもらう必要があります。競合他社と差別化を図り独自のポジションを設定することで、飽和市場でも競争優位を高めることが可能です。
ポジショニングを検討する際は「ポジショニングマップ」を作成します。ポジショニングマップは縦軸と横軸に比較軸をとったマトリクス図で、自社・競合他社を配置することで各社の立ち位置を可視化できます。
マップ作成時の比較軸は、機能・価格・デザインなど、顧客が商品やサービスを購入する際に重視する要素「KBF(Key Buying Factor:購買決定要因)」から抽出するのが基本です。
戦術的プロセス「MM-I-C」
戦略の方向性が決まったら、具体的なマーケティング施策を策定・実行する戦術的プロセスのフェーズに移ります。
MM:マーケティングミックス(4P/4C)
戦術的プロセスの中核を担うのがマーケティングミックスの策定です。マーケティングミックスとは、事業目標を達成するために必要なマーケティング要素を組み合わせたもので、「何を、いくらで、いつ、どこで、どのように」購入してもらうかが明確になります。
基本的に、マーケティングミックスは「4つのP」に整理されます。
<4P>
Product(製品) | 機能、サイズ、パッケージ、保証、サポートなど |
Price(価格) | 開発・製造コストや競合他社の価格などをふまえた価格設定 |
Place(流通) | 販売チャネル、在庫、物流など |
Promotion(プロモーション) | 広告宣伝、キャンペーン、人的販売、広報など |
なお、4PはBtoCを前提に売り手側の視点で整理されたフレームワークです。
BtoBにおいては、4Pの要素を買い手側の視点に置き換えた「4C」を用いることが一般的です。4Cの要素は以下の通りです。
<4C>
Customer Solution (顧客ソリューション) |
顧客が抱える課題をどのように解決するかを考える |
Customer Cost (顧客コスト) |
価格を「顧客が払うコスト」と捉え、商品・サービスにそれだけの価値があるかどうかを考える |
Convenience (利便性) |
「顧客が入手しやすいか」という観点で販売方法を検討する |
Communication (コミュニケーション) |
顧客と良好な関係性を構築するために、どのようなプロモーションやサポートが必要かを検討する |
BtoBのマーケティング施策については、以下の記事を参考にしてください。
BtoBのリード獲得手法とは|12の施策と成功のためのポイント・事例
ナーチャリングとは|見込み顧客や既存顧客を育成する6つの手法と事前準備
I:実行
ここまでのプロセスで決定した戦略・戦術を実行に移すフェーズです。実行にあたっては、各施策のスケジュールと数値目標(KPI:重要業績評価指標)を設定することが重要です。
KPIは、事業目標を達成するための各施策が適切に実行されているかを評価する指標です。例えば、Web施策ではPV(ページビュー)やUU(ユニークユーザー)、CVR(コンバージョン率)などが挙げられます。
BtoBにおいては、セミナー申込数やリード獲得数、商談化率、受注率などを設定します。
BtoBマーケティングのKPIについては、以下の記事も参考にしてください。
マーケティングのKPI(指標)とは|KGI・KSFとの関係・KPIの種類と指標設定のやり方
C:評価
マーケティング施策を実行した結果、どのような効果が得られたのかを評価します。KPIに対する達成度を測定して達成できた・できなかった要因を分析し、改善策を検討します。
KPIに基づいてマーケティングのPDCAをまわすことで、より効果的な施策にブラッシュアップすることができます。
BtoBマーケティングの効果測定については、以下の記事も参考にしてください。
マーケティングの効果測定とは|費用対効果・施策別の指標(KPI)と効果測定に役立つツール
適切なマーケティングプロセスで戦略を策定しよう
ニーズの多様化や競争が激化する市場で顧客を獲得するには、適切なマーケティングプロセスに沿って戦略を策定することが肝要です。自社を取り巻く環境を分析して参入する市場を選定し、ターゲットに効くマーケティングミックスを展開すれば、飽和市場でも独自のポジションを築くことができます。
マーケティングプロセスの基本の型は「R-STP-MM-I-C」です。戦略プロセス・戦術プロセスの手順に沿って分析や検討を進めることで、「誰に・何を・どこで・どのように売るのか」が明確になります。ここで紹介したフレームワークやポイントを参考に、効果的なマーケティング戦略を策定しましょう。
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