自社の現状分析や戦略立案に役立つフレームワークとして知られる「SWOT分析」。どのような手法なのかは知っているものの、具体的なやりかたがわからないという声も聞かれます。そこで本記事では、SWOT分析の手順を3つのステップに分けて詳しく解説します。具体的な戦略に落とし込む「クロスSWOT分析」も紹介するので、ぜひ参考にしてください。
シーラベルは、「新規事業の立ち上げ」「既存事業のテコ入れ」にお困りの企業様を支援しています。
⇒実行支援型のマーケティングコンサルティング サービス紹介資料の無料ダウンロードはこちら
SWOT分析とは
SWOT分析とは、経営やマーケティングの戦略策定のために行う事業分析のフレームワークです。
自社の事業の状況を、内部環境における「強み(Strength)」と「弱み(Weakness)」、外部環境における「機会(Opportunity)」と「脅威(Threat)」の4つに分けて整理することから、それぞれの頭文字をとってSWOT分析と名付けられました。
事業環境を内部・外部の両方の視点から整理するSWOT分析はマーケティングプロセスの初期フェーズで用いられることが多く、分析を通じて市場機会や事業課題を発見し、戦略方針を明確化することができます。
マーケティングプロセスについては、以下の記事を参考にしてください。
マーケティングプロセスとは|基本の型「R-STP-MM-I-C」における戦略策定の流れ
SWOTのマトリクス
SWOT分析の4つの要素は、縦軸に内部環境・外部環境、横軸にプラス要因・マイナス要因をとったマトリクス表で整理することが一般的です。
プラス要因 | マイナス要因 | |
内部環境 | 強み(Strength) 自社の長所や得意分野 |
弱み(Weakness) 自社の短所や苦手分野 |
外部環境 | 機会(Opportunity) 社会や市場の変化で 自社にとってプラスに働くこと |
脅威(Threat) 社会や市場の変化で 自社にとってマイナスに働くこと |
内部環境とは
内部環境とは、経営資源など自社でコントロールできる要素のことです。具体的には以下のような項目があり、自社の目標達成において「プラス要因となる強み」と「マイナス要因となる弱み」を整理します。
<内部環境(強み・弱み)の項目例> ・人材 ・人的資源 ・資金力 ・技術力・ノウハウ ・設備・インフラ ・品質 ・ブランド力 ・顧客情報 ・販売チャネル ・セールス体制 ・物流体制 ・価格 ・コスト |
外部環境とは
外部環境とは、社会情勢や市場動向など自社でコントロールできない要素のことです。具体的には以下のような項目があり、自社の目標達成において「機会創出につながるか」または「脅威となりそうか」を見極めて整理します。
<外部環境(機会・脅威)の項目例> ・政治動向 ・法律・規制 ・景気・金利 ・人口動態 ・市場や業界のトレンド ・技術革新 ・競合他社の動向 |
SWOT分析の流れ
SWOT分析は、分析対象(会社全体、新規事業、既存事業など)を明確にしたうえで下記3つのステップで進めていきます。
- 外部環境を分析する
- 内部環境を分析する
- 「クロスSWOT分析」を行う
内部環境は外部環境によって強み・弱みのどちらにもなり得るため、まずは外部環境の「機会」と「脅威」を整理することから始めます。外部環境と内部環境の分析が終わったら、分析結果をもとに「クロスSWOT分析」を行い、具体的な戦略やアクションプランに落とし込みます。
各ステップの詳細については、次章より順に解説していきます。
SWOT分析のやりかた①外部環境の分析
SWOT分析の最初のステップは、自社を取り巻く外部環境を分析して目標を達成するうえでの「機会(Opportunity)」と「脅威(Threat)」を洗い出すことです。
外部環境の範囲は広いため、「マクロ視点」と「ミクロ視点」に分けて考えることをおすすめします。
マクロ視点での外部環境
マクロ視点で見た外部環境は、政治・経済・社会・科学技術など自社では直接コントロールすることができない大局的観点でのトレンドのことです。
マクロ視点での機会と脅威の例を以下に挙げます。
マクロ視点での「機会」の例 | マクロ視点での「脅威」の例 |
・新興国の経済成長 ・国内での関連法の整備 ・生活や業務におけるIT化の促進 ・SDGsや環境意識の高まり ・業務改善につながる新テクノロジーの発展 |
・円高・円安の進行 ・原材料価格の高騰 ・大規模な規制緩和 ・長引く不景気による消費マインドの低下 |
ミクロ視点での外部環境
ミクロ視点で見た外部環境は、競合他社・生活者・取引先など自社のビジネスに直接的な影響を及ぼす要素のことです。
ミクロ視点での機会と脅威の例を以下に挙げます。
ミクロ視点での「機会」の例 | ミクロ視点での「脅威」の例 |
・ライフスタイルの変化による需要拡大 ・若年層ユーザーの増加 ・海外競合企業の日本市場からの撤退 ・海外のアライアンス先の拡大 |
・人口減少に伴う国内市場の縮小 ・異業種からの新規参入 ・競合他社同士の業務提携 ・低価格志向のユーザーが増加 ・代替サービスの急速な普及 |
ビジネスの成否に関わる時勢や市場動向を的確に捉えるために、マクロとミクロ両方の視点から自社の外部環境を分析しましょう。
外部環境分析に役立つフレームワーク
外部環境の何を分析すればよいか迷ったときは、フレームワークを活用しましょう。
ここでは、外部環境分析でよく用いられる「PEST分析」と「5フォース分析」を紹介します。
PEST分析
PEST(ペスト)分析は、「政治(Politics)」「経済(Economy)」「社会(Society)」「技術(Technology)」の4つの観点から事業環境を分析するためのフレームワークです。
外部環境をマクロ視点で分析したい場合に有用で、下記項目に沿って整理することで社会全体の動向を余すことなく捉えられるようになります。
<PEST分析の項目>
Politics(政治的要因) 市場の競争ルールを変える要因 (例)法改正、税制改正、政治情勢など |
Economy(経済的要因) 売上やコスト、価格に影響を与える要因 (例)経済成長率、為替、株価、物価、消費動向など |
Society(社会的要因) 買い手のライフスタイルやニーズに 影響を与える要因 (例)人口動態、流行、教育、宗教など |
Technology(技術的要因) 商品開発や生産などに 影響を与える技術的な要因 (例)インフラ、技術革新、特許など |
5フォース分析
5(ファイブ)フォース分析は、「既存の競合他社」「新規参入業者」「代替品」「買い手の交渉力」「売り手の交渉力」の5つの観点から業界構造を分析するためのフレームワークです。
外部環境をミクロ視点で分析したい場合に有用で、自社にとっての「脅威」を洗い出すことができます。
具体的な分析項目を以下に挙げます。
<5フォース分析の項目>
既存の競合他社 | 自社とすでに競合関係にある企業の市場シェアやブランド力、製品力などによる脅威の程度(自社の業績やブランドへの影響)を分析する |
新規参入者 | 業界に新規参入する企業の脅威がどの程度あるのか、参入障壁の高低や新規参入業者の特徴などの面から分析する |
代替品 | 自社が提供する商品・サービスとは異なる形態や価格帯で、ユーザーのニーズを満たす代替品が現れる脅威について分析する |
買い手の交渉力 | 自社に対して顧客(買い手)が優位になる脅威について、顧客の購買力や価格設定、スイッチングコストなどの面から分析する |
売り手の交渉力 | 原材料や部品などの供給業者(売り手)が優位になる脅威について、原材料の希少性や代替業者の有無などの面から分析する |
SWOT分析のやりかた②内部環境の分析
外部環境の分析が終わったら、自社の内部環境における「強み(Strength)」と「弱み(Weakness)」を洗い出します。
自社の強み・弱みを見つける方法
内部環境の強み・弱みは以下のように定義することができます。
「強み」の定義と例 | 「弱み」の定義と例 |
自社がもつ経営資産や特徴において、顧客の購買理由となり得る/目標達成に貢献する要素
<例> |
自社がもつ経営資産や特徴において、顧客の購買意欲を低下させる/目標達成の障壁となる要素
<例> |
簡潔に言うと業績に直接的な影響を与えるかどうかが重要であり、「働きやすい職場環境」「社員のモチベーションが高い」などの間接的な要素は必ずしも強みとなはらない点に注意してください。
また、強み・弱みは主観や企業視点ではなく、顧客視点に立って考えることが重要です。自社の客観的な評価を把握するために、取引先にヒアリングを行ったり、アンケートでユーザーの意見を集めたりするのも一案です。
内部環境分析に役立つフレームワーク
ここでは、内部環境分析を支援する代表的なフレームワークを2つ紹介します。
VRIO分析
VRIO(ブリオ)分析は、自社の経営資源を「経済的な価値」「希少性」「模倣困難性」「組織」の4つの項目で分析して競争優位性の有無を評価する手法です。
4つの項目の内容は以下の通りで、評価は上から順に行います。
<VRIO分析の項目>
経済的な価値(Value) | 自社の経営資源は新たなビジネスチャンスにつながるか、市場の変化やリスクに対応できるかを評価する |
希少性(Rareness) | 競合他社と比較して、自社の経営資源やビジネスモデルにどれくらい独自性があるかを評価する |
模倣困難性(Imitability) | 自社の経営資源が競合他社に模倣される可能性について評価する |
組織(Organization) | 自社の経営資源を最大限に活用できる組織体制が整っているかを評価する |
自社の経営資源を各項目に照らし合わせて「Yes」か「No」で評価することで、自社の強み・弱みを把握することができます。
バリューチェーン分析
バリューチェーン分析とは、顧客に商品・サービスを届けるまでの一連の企業活動を「価値の連鎖(バリューチェーン)」とみなし、各活動を分析するフレームワークです。個々の活動で生み出される付加価値やコスト、問題点など分析することで、自社の内部的な強み・弱みを明らかにすることができます。
バリューチェーン分析では、企業活動を「主活動」と「支援活動」に分けて分析します。分類方法は業界や業種で異なりますが、例えば製造業では以下のように分類されます。
主活動 | 支援活動 |
利益や価値を生み出す企業活動 ・購買物流 ・製造 ・出荷物流 ・販売・マーケティング ・サービス |
主活動を支える企業活動 ・管理全般(インフラ) ・調達 ・技術開発 ・人事・労務管理 |
なお、バリューチェーン分析はVRIO分析と併用するのが一般的です。併用により自社の競争優位や課題を精緻に分析することができるため、2つの手法をぜひ押さえておきましょう。
SWOT分析のやりかた③クロスSWOT分析
SWOT分析で自社の現状を整理できたら、分析結果をもとにクロスSWOT分析を行って具体的な戦略・施策に落とし込んでいきます。
クロスSWOT分析では、SWOT分析の各要素を下記のように組み合わせることで選択すべき戦略を明確にします。
強み(内部環境) | 弱み(内部環境) | |
機会(外部環境) | 強み×機会 (積極化戦略) |
弱み×機会 (改善戦略) |
脅威(外部環境) | 強み×脅威 (差別化戦略) |
弱み×脅威 (防衛・縮小撤退戦略)’ |
各象限の戦略の考え方を見ていきます。
強み×機会(積極化戦略)
自社の強みを活かしながら、積極的にビジネスチャンスを捉えるための戦略です。内部環境・外部環境のプラス要因どうしを組み合わせるため、進出・前進することが大きな方向性となります。それぞれの長所を最大限に活用した戦略や施策を実行することで、事業の成長やシェア拡大、市場における競争優位性を高めることができます。
<戦略の例>
強固な財務基盤(強み)を活かし、経済成長が著しい新興国(機会)への投資額を増やす |
弱み×機会(改善戦略)
自社が抱えている弱点を克服し、新たなビジネスチャンスを獲得するための戦略です。例えば、市場環境的に好機に恵まれているにもかかわらず、自社の弱点がネックとなって後手に回っているような場合に、どのように弱点を改善して機会を最大限に活用するかを考えます。
<戦略の例>
人材不足(弱み)を採用強化やリスキリングで補強し、需要が高まっているサービス(機会)を強化する |
強み×脅威(差別化戦略)
脅威を切り抜けて損失を最小限に抑えるために、どのように自社の強みを活用するかを検討します。また、脅威をチャンスに転換する方法を検討するケースもあります。強みを活かせば競合他社との差別化を促進できるため、事業成長につながる可能性があります。
<戦略の例>
技術力や商品開発力の高さ(強み)を活かして異業種からの新規参入(脅威)に備える |
弱み×脅威(防衛・縮小撤退戦略)
内部環境・外部環境のマイナス要因どうしの組み合わせでは最悪のシナリオが想定されるため、大きな損失を回避するための方策を検討します。一般的には、脅威のリスクを最小限に抑えるための防衛策の立案や、事業の縮小・撤退が有力な選択肢となります。
<戦略の例>
大手IT企業の新規参入(脅威)を受けてオンライン化が遅れていたサービス(弱み)から撤退し、他の事業にリソースを配分する |
SWOT分析で事業環境を整理しよう
SWOT分析は、まず自社を取り巻く外部環境をマクロ・ミクロの視点から分析することから始めます。自社にとっての外的な「機会」と「脅威」を整理できたら、経営資源などの内部環境を分析して「強み」と「弱み」を整理します。分析項目などに迷った場合は、PEST分析やVRIO分析などのフレームワークを活用しましょう。
SWOT分析で自社の現状を整理・把握できたら、各要素を組み合わせたクロスSWOT分析を行い、具体的な戦略・戦術を立案します。SWOT分析からクロスSWOT分析までひと通り行うことで、様々な要素が入り組んだ複雑な事業環境をシンプルに可視化でき、確度の高い戦略を導き出すことができます。
新規事業の立ち上げや既存事業のテコ入れを考えている場合は、SWOT分析で自社の現状を分析してみましょう。
シーラベルは、「新規事業の立ち上げ」「既存事業のテコ入れ」にお困りの企業様を支援しています。