ABM(アカウントベースドマーケティング)とは、売上への貢献度が高いアカウント(企業)を抽出して効率的に売上最大化を目指すBtoBマーケティング手法です。リソースの分散を防ぎ、投資対効果を高められるというメリットがあります。ABMと他のマーケティング手法との違いや導入の流れ、事例まで解説します。
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ABMとは
ABM(アカウントベースドマーケティング)とは、自社が注力すべき企業(アカウント)を定義・選定した上で、1社ごとに最適なアプローチをしていくBtoBマーケティング手法のことです。
従来、日本では重要顧客に何度も足を運び、個社ごとにカスタマイズした提案から受注につなげる法人営業が行われてきており、アカウントベースの営業自体は目新しいことではありません。
一方で、この営業スタイルは多くの時間とリソースを割くことになるため、非効率という課題が残ります。また、昨今は複数の関係者が意思決定に関わる組織体制となっている企業が多く、個人単位のリード(見込客)にアプローチしているだけでは受注が難しいケースも増えています。
これらの課題を解決するのが、マーケティングと営業を連携させるABMの考え方です。リソースの最適化を図りながら、売上の最大化を目指すことが目的となります。昨今は顧客情報の一元管理や共有、データ分析をスムーズにするデジタルツールが多数提供されており、効率的に運用できる素地が整っていることもABMの実現を後押ししています。
ABMと他のマーケティング手法との違い
ABMについての理解を深めるため、他のマーケティング手法との違いを見ていきましょう。
LBM(リードベースドマーケティング)との違い
LBM(リードベースドマーケティング)とは、個人単位のリードを獲得する手法のことです。マーケティング部門が主体となって、幅広くリードを集めるところから始まります。KPIは、リード獲得数や確度の高いリード数とすることが多くなっています。
これに対し、ABMはターゲットとする企業(アカウント)を絞り込むことからスタートする点が大きな特徴です。マーケティング部門と営業部門が連携しながら、売上や投資対効果の最大化を目指します。
ABM | LBM | |
アプローチ対象 | 企業単位(アカウント) | 個人単位(リード) |
目的 | ・売上を最大化する ・投資対効果(ROI)を最大化する |
・多くのリードを獲得する ・確度の高いリードを獲得する |
主体となる部門 | マーケティング部門と営業部門が連携 | マーケティング部門 |
デマンドジェネレーションとの違い
デマンドジェネレーションとは、案件化が見込まれるリードを営業部門に渡すまでのプロセスのことです。デマンドジェネレーションには需要創出という意味があり、以下の3つのプロセスがあります。
- リードジェネレーション:見込客の獲得
- リードナーチャリング:見込客の育成
- リードクオリフィケーション:見込客の絞り込み
デマンドジェネレーションでは不特定多数のリードにアプローチし、自社への興味・関心を高めながら案件確度を高めていきます。リードをセグメントして最適なアプローチを行っていくという考え方はABMと似ていますが、デマンドジェネレーションでは徐々に確度の高いリードへと絞り込んでいくステップを踏みます。
対してABMは、あらかじめアカウントを特定し、接点強化や質の高い提案によって売上の最大化を目指すという違いがあります。ただし、ABMとデマンドジェネレーションは相反するものではなく、それぞれの役割を補強しながら同時に行われることが多くなっています。
ABM導入のメリット
ABMを導入するメリットは、次のように整理できます。
投資対効果の向上
幅広いリードにアプローチしていく手法は、リソースが分散しやすいという側面があります。ABMは売上への貢献度が高いアカウントを絞り込むことからスタートするため、大きなリターンが期待できる企業にリソースを集中させることになります。結果として、投資対効果の向上が期待できます。
アカウントごとに最適化された施策を実現
ABMではアカウントを一定数に絞り込むため、各企業の特性や事情に合わせたOne to Oneのアプローチが可能になります。課題・ニーズを理解した上での情報提供やソリューションの提案は、不特定多数に向けたアプローチよりも印象に残りやすいものです。
そのため、施策による効果を上げやすいというメリットを得られます。また、個社ごとの効果測定が容易なため、PDCAを回しやすいという利点もあります。
マーケティングと営業の連携強化
マーケティング部門ではMQL(Marketing Qualified Lead:マーケティングで獲得したホットリード)や、SQL(Sales Qualified Lead:確度が高い見込客)をKPIとしていることが多いでしょう。一方で、これらの指標をもとに獲得・育成したリードを営業部門に引き渡したものの、「営業部門が求めていたターゲットではない」という部門間のズレが生じてしまうことがあります。その結果、営業のフォローが進まず案件化できないという問題に直面するケースが少なくありません。
ABMでは、あらかじめマーケティングと営業の双方で決めた共通のアカウントに最適なアプローチを実施していくため、営業がフォローしないという問題を解消できます。マーケティング部門・営業部門が共通の目標を持つことで部門間の連携が強化され、売上最大化を実現しやすくなるというメリットがあります。
ABMが向いている企業とは
ABMは様々なメリットがある手法ですが、全ての企業に適しているわけではない点に注意が必要です。以下にABMが向いている企業の特徴を整理しました。
<ABMが向いている企業の特徴>
- 中規模以上の企業がターゲット
- 商材の単価が高い
- 複数の商材を提供しておりアップセル・クロスセルが見込める
- 営業担当が一定数以上いる組織体制
ABMは特定のアカウントにリソースを集中させることで売上最大化を目指す手法のため、小規模企業をメインターゲットとしている場合や商材単価が低い場合などは、投下したリソースに対して十分な売上が見込めません。
また、特定顧客の売上を最大化するよりも数多くの新規顧客を集めることが売上拡大につながるフェーズにある場合や、顧客数の多さが売上を支えている事業においても十分な成果につながりにくいといえるでしょう。
ABM導入の流れ
ABMを導入する際の基本的な流れを5つのステップに分けて見ていきます。
ステップ1:ABMを推進する体制づくり
マーケティング・営業・カスタマーサクセスなど複数の部署がそれぞれにアカウントと接点を持っている場合や、別々の担当者にアプローチしているケースもあるでしょう。ABMではアカウントを軸に「誰に向けて・いつ・どのようなコンテンツを届けるのか」、全体最適を考える必要があります。
各部署が連携しながら進めることが成功の鍵を握るため、適切に調整できる役割を担うチームを作るなど、まずはABMを推進できる体制を構築することが重要です。
ステップ2:対象とするアカウントを選定してリスト化
顧客情報を整理・分析し、自社がリソースを投下すべきアカウントはどこかを企業単位で選定します。リストアップする際は、定義を明確にするとスムーズです。以下の観点を参考にしてください。
- 売上規模:上位○位、全体売上の〇割以上を占める など
- 成長見込み:アップセル・クロスセルやLTV(顧客生涯価値)の向上が見込まれる など
- 競争優位性:自社製品・サービスの強みを活かせる業種・規模 など
- 自社ブランドへの貢献:取引により自社ブランドの信頼性が高まる など
既存顧客の中から理想的なケースをピックアップして業種・規模などの共通点を洗い出して、新規で狙いたいアカウントを抽出するという方法もあります。ABMは中長期的に取り組むことで成果を最大化する手法のため、将来的な売上インパクトも視野に入れながら選定することがポイントです。
ステップ3:キーパーソンの情報を整理
中規模以上の企業を対象とする場合、複数のキーパーソンが決裁に関わるケースが多くなります。アカウントを選定したら、意思決定に関与するキーパーソンの情報を収集して整理します。
たとえば、部署によって重視する機能・サービスが異なることもあれば、アプローチするキーパーソンによって受注額が増減するというケースもあります。訴求ポイントをぶらさずに的確にアプローチするためには、それぞれの人物の情報を押さえておくことが重要になります。
自社で接点を持っていないという場合は、オンラインやオフラインの施策を通じてキーパーソンの情報を集めることが必要です。
ステップ4:アプローチ方法を決定・実施
キーパーソンの情報を整理したら、それぞれに合ったアプローチ方法を決定します。キーパーソンが抱えている課題・ニーズを特定し、興味・関心度を高めるコンテンツを提供するなどパーソナライズしたアプローチをすることがポイントです。
具体的には、Web広告やメルマガ、オウンドメディア、SNS、ホワイトペーパー、導入事例などのコンテンツのほか、ウェビナーや展示会・イベント、キャンペーン、DM、訪問面談などの施策があります。オンライン・オフラインを含め、最適なタッチポイントも合わせて検討しましょう。カスタマーマップを作成してストーリーを可視化するのも良い方法です。
ステップ5:効果検証
施策を実施したら効果を検証します。効果検証では、次の観点を参考に評価するとよいでしょう。
- キーパーソンと接触できているか
- 有効商談につながっているか
- 既存アカウントのLTVが高まっているか
- 新規アカウントを獲得できているか
- 顧客ロイヤリティが高まっているか
- 成果が出た施策・出なかった施策は何か
ABMは母数を重視するマーケティング手法とは異なり、アプローチの質に重点を置いて時間をかけながら売上最大化につなげていく手法です。すぐに数値的な効果が見られなくても、PDCAを回しながらより良い方法を模索していくことが重要になります。
ABMに役立つツール
ABMを効率的に運用するにはツールの活用が不可欠です。ここでは、ABMに役立つツールを紹介します。
ABMツール
ABMツールとは、対象アカウントを抽出するための企業データベースの蓄積や分析機能を備えたツールのことです。ベンダーが保有する膨大な企業データと、自社が保有する企業データを統合管理できるツールも提供されており、客観的にポテンシャルが高いアカウントを自動抽出することも可能です。業界区分や企業規模といった属性情報を自動付与する機能も提供されています。
CRMやSFA、MAなど他のシステムとの連携性に優れているものも多く、効率的にABMを実現できます。
CRM/SFA
CRMとSFAは顧客情報の一元管理や目標管理、商談管理、分析機能などを備えたツールです。CRMは顧客との関係性構築に重点をおいている点に特徴があり、SFAは営業活動の効率化を促進する機能が充実しているという違いがありますが、いずれもマーケティング部門と営業部門の情報共有をスムーズにしてくれる機能を備えています。ABMの実現に重要となる部門間の連携強化に役立ちます。
MA
MAはマーケティング活動を自動化し、見込客の獲得・育成を実現するためのツールです。主要な機能として、見込客の管理やスコアリングによるセグメント化、メール配信などがあります。MAツールの中にはABMツールと同様の機能を備えたものもあり、自社にとっての重要顧客の分析・抽出が可能になっています。
ABMの導入事例
ABMは、ツールを用いながら運用するケースがほとんどです。ここではABMの導入によって成果を上げている企業の事例・利用ツールをDX事例プラットフォーム『シーラベル』の中からピックアップして紹介します。
エキサイト株式会社
エキサイト株式会社は、検索エンジンやポータルサイトなどのプラットフォーム事業、SaaS・DX事業を展開する会社です。同社では新規事業の立ち上げに際し、営業メンバーの人数が限られている状況下でABMを回していく方法を模索していました。
成約までの判断が早く受注率が高い決裁者との商談獲得を目指して導入したのは、オンライン完結で決裁者アポがとれる完全審査制の決裁者獲得支援SaaS『アポレル』です。専任コンシェルジュとのミーティングでターゲットを明確化し、1カ月に20社の決裁者と商談することができました。
その結果、780万円の売上を積み増すことに成功し、上場企業との共催ウェビナー実施が決まるなどの成果も得られています。
参照:【導入2ヶ月で780万円の売上達成】決裁者アポ獲得支援SaaS『アポレル』導入成功の秘訣
株式会社LIG
株式会社LIG は、Webサイト制作やシステム・アプリ開発事業、コンサルティング事業、Webクリエイタースクールの運営など幅広い事業を展開する会社です。同社では、営業がコールするためのリストが少ない、コール先の検討レベルが不明、マーケティングのリソースが限られているという課題があり、工数を抑えながらホットリードを精査してアプローチする方法を探していました。
同社が導入したのはWeb制作会社が開発したMAツール『BowNow』です。あらかじめ指定した重要ページを訪れた企業を抽出・リスト化し、営業が架電するという施策を実行しました。また、蓄積したリードにセミナーの案内メールを送るなどの施策も行っています。
その結果、アポイント獲得率が6.3%から11.9%まで上昇しました。これまで対象としていなかった地方企業の受注にも成功しているほか、休眠リードがセミナーに参加するなどの成果が出ています。
参照:営業リストをBowNowで抽出したリストに変更したら、アポ獲得率6.3%→11.9%にアップ!
各種ツールを活用しながら成果を生み出す
ABMは優良顧客を育て、自社を支える売上基盤を作る上で有効な手法です。ABMを成功させるには部門をまたいだ顧客データの収集・統合の仕組みが必要であり、各種ツールをうまく活用していくことがポイントとなります。自社がABMの導入に向いているのかを精査した上で、課題に即したツールを活用しながら運用していくことをおすすめします。
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