意思決定における関係者が多くタッチポイントが複雑化しているBtoBマーケティングにおいて、カスタマージャーニーマップは顧客理解に有効なツールです。本記事では、BtoBのカスタマージャーニーマップの作り方とありがちな失敗を防ぐコツををわかりやすく解説します。また
弊社でカスタマージャーニーマップを作成した際に実施した、顧客の解像度を上げる3つの施策と、作成して得られた効果もご紹介します。
シーラベルでは、「顧客体験の向上」「カスタマージャーニーマップの作成」にお困りの企業様を支援しています。
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BtoB企業がカスタマージャーニーマップを作成するメリット
カスタマージャーニーマップの作成は、顧客の購買行動についての解像度を高めて最適なマーケティングや営業戦略を策定することを目的に実施します。BtoB企業の場合、取引先の傾向は理解していると思いがちですが、顧客視点に立って購買行動を整理するとあらためて気づく課題もあります。
まずはBtoB企業がカスタマージャーニーマップを作成するメリットを見ていきましょう。
顧客体験の向上
継続的な取引によって収益性を高めるSaaS企業を筆頭に、自社のポジションを確立するためのキーワードとして重視されているのが顧客体験の向上です。カスタマージャーニーマップを作成すると、タッチポイントにおける顧客とのより良い関わり方の検討ができ、顧客体験を向上させるための戦略立案につながります。
また、BtoBの場合、マーケティング・営業・カスタマーサクセスなど複数の部門が各タッチポイントにおいて顧客と接点を持つケースが少なくありません。しかし、顧客にとっては、検討・購入・利用と分断なく続く一連の流れが“体験”であるため、顧客体験の向上を図るには部門間の連携がシームレスであることも重要なポイントとなります。
認知・情報収集・比較検討・購入・利用継続という顧客の一連の購買行動を、カスタマージャーニーマップを作成して可視化することで、部門ごとに実施する課題抽出だけでは見逃しがちな顧客体験における問題点も発見しやすくなるというメリットがあります。
施策の精度を向上
BtoBでは決裁ルートに複数の担当者が関わるケースが多く、BtoCに比べて購買までの検討期間は長くなる傾向があります。くわえて、比較検討フェーズにおける選択基準や優先事項は、各顧客の事情によって異なり施策の方向性や優先順位を定めにくいことも多くあります。
そのため、カスタマージャーニーマップを作成して顧客理解を深め、明確になったタッチポイントに対して施策を実施できていない点を明確にし、施策の優先順位をつけることが先決といえるのです。明確になった課題を解決する施策を実行しつつPDCAを回すことで、施策の精度が向上していきます。
社内の共通認識を醸成
BtoB企業では、企画開発、UI/UXデザイン、営業、マーケティングなど複数の担当者が関わりながら商品・サービスを提供しているケースが多くなります。各担当者の認識にズレがあると、一貫したプロダクト戦略を実行することができず、顧客への提供価値が下がってしまうことが懸念されます。
カスタマージャーニーマップはこうした組織間の認識の齟齬を防ぎ、社内の共通認識をスピーディかつ効率的に醸成する上でも役立ちます。
BtoBのカスタマージャーニーマップの作り方
BtoBカスタマージャーニーマップの基本となる型は、横軸に顧客の購買行動を時系列で並べ、縦軸に各フェーズにおける顧客の行動、そのときの感情・思考、タッチポイント、自社の課題と解決策を整理するレイアウトです。
とくに決まったルールはないため、自社が使いやすいようにカスタマイズすればよいでしょう。ここでは基本の型をもとにして、カスタマージャーニーマップを作成する手順を6つのステップに分けて見ていきます。
ステップ1:目的を設定
まず、カスタマージャーニーマップを作成する目的を決めます。多く挙げられるのは、売上拡大や継続率の向上、新規顧客開拓、プロダクトの開発・改善に際しての優先順位付けです。
たとえば、商品・サービスの継続率向上を目的とした場合、購買後の行動に重点を置いて作成する必要があります。このように、目的によってマップに盛り込むべき要素が変わるため、はじめに目的を明確にしておきましょう。
ステップ2:ペルソナを設定
BtoBのペルソナは、ターゲットとする企業の典型的なモデルを設定します。取引先の中で売上の上位を占める企業や今後注力していきたい企業の中から、サンプルを選ぶという方法がお勧めです。
また、BtoBの場合はキーパーソンが複数存在することが多くなります。ペルソナの設定では、意思決定に関わる人または自社との接点が多く購入決定のフックになっている担当者というように、自社への影響力が強い人を選定するとよいでしょう。
キーパーソンが不明瞭あるいは複雑な組織構造になっている場合は、はじめにステークホルダーの関係図を作成しておくとスムーズに進めやすくなります。
以下に、BtoBのペルソナで明らかにしておきたい要素の例を挙げるので参考にしてください。
例)
企業 | キーパーソンの属性 |
・業種 ・事業内容 ・所在地 ・従業員規模 ・売上規模 ・経営理念 ・組織風土 ・ビジネス上の課題 |
・年齢 ・性別 ・所属部署 ・年次 ・役職 ・権限 ・業務内容 ・部署または個人のミッション ・情報収集手段 ・業務上の課題 |
ステップ3:顧客の購買行動を時系列に整理
商品の認知から購買後まで、顧客がどのように行動するのかを時系列に整理します。BtoBの場合、組織または担当者が抱える課題・悩みが背景にあり、それを解決するために次の行動をとるという流れが多いため、ペルソナが抱える課題・悩みを起点にすると、整理しやすくなります。
下の表は、一般的に多く用いられている購買行動のフェーズ例です。どの程度の粒度まで細かくするかは、カスタマージャーニーマップを作成する目的と照らし合わせながら検討しましょう。
例)
フェーズ | 顧客が抱える課題 | 顧客の行動 |
認知 | 課題が顕在化 | 広告やウェビナー、展示会、紹介などで認知する |
情報収集 | 解決方法を具体的に知りたい | Webや同業者などから情報を集める |
比較検討 | 自社に最適な解決方法を見つけたい | 候補となる商品・サービスを複数並べて特徴や優劣を比べる |
意思決定 | 購入にあたって問題点はないか | 商談や問い合わせを通じて懸念点を解消する |
稟議・承認 | 稟議を通すために必要な情報がほしい | 稟議書を作成して承認を得る |
購入 | 契約にあたって問題点はないか | 契約内容を確認して購入する |
利用・評価 | 購入前に想定していた効果・メリットが得られているか | 商品・サービスを導入し、利用状況や利用者の評価を確認する |
契約継続 | 契約を継続すべきか | 利用が定着したため契約を継続する |
顧客がとる行動は、企業の組織風土や意思決定プロセス、担当者のパーソナリティなどによっても変わるため、ペルソナをもとに整理することがポイントです。ここで整理した購買行動をもとに自社の課題抽出や施策の方向性を検討することになるため、想像や思い込みで作成せずに、できるだけ実態に即した内容にすることが重要です。
顧客の購買行動がイメージできないという場合は、ペルソナ像に近い取引先に協力をお願いして、インタビュー調査やアンケート調査で情報を集めるという方法があります。
ステップ4:顧客の感情・思考を整理
ステップ3で整理した顧客の購買行動のフェーズごとに、そのときに抱いている顧客の感情や思考を書き入れていきます。
たとえば、比較検討フェーズの「複数社の見積と資料を収集して比較」行動に対応する感情としては、「候補になりそうなツールを検討する際に種類が多すぎて困る」といった思いを抱くと想定して記入します。このように具体的なシーンを想定しながら顧客の感情・思考を整理することで、比較情報をまとめた資料の送付やコールアプローチでの説明など、自社がどのタイミングでどういった提案をすればよいのか、施策の方向性が具体的になります。
ただし、ここでも自社の思い込みや願望で作ってしまうと実態と乖離してしまうため注意してください。
誰が見ても違和感がなくリアリティを感じられる状態が理想ですが、汎用的になりすぎるとマップを作成したものの新たな気づきや発見を得られないという結果になります。顧客の声を一番よく聞いている営業担当者にヒアリングする、事前にアンケートやSNSなどから顧客の声を集める、ITツールに蓄積されている情報を活用するなど、リアルな声を反映させる工夫をしながら作成するといいでしょう。
ステップ5:タッチポイントを整理
顧客の購買行動と感情・思考を整理したら、タッチポイントと担当部門を整理します。
BtoB企業の場合、オンライン・オフライン含めて、複数の部署が様々な手段で接点を作るケースが多くなっています。たとえば購入前には、マーケティング部門で経営者向け・担当者向けなどに分けて様々なテーマでのコンテンツ配信や、ウェビナー開催、、営業部門は展示会や商談での接点があげられます。、購入後にはカスタマーサポート部門が購入後の問い合わせ対応、カスタマーサクセス部門がオンボーディングというように顧客とのタッチポイントの数が多く、複雑になっています。
そのため、カスタマージャーニーマップを次の施策に活かすには、各タッチポイントが顧客の行動や感情・思考にどれくらい影響を与えているか、ポジティブな変化をもたらしているかを念頭に置きながら整理することがポイントです。
ステップ6:課題抽出と施策の検討
ステップ5までの枠を埋めたら、各フェーズにおける自社の課題を洗い出して解決するための施策を検討します。たとえば、「ツールの種類が多すぎて選べないという悩みを抱えている顧客に対して情報提供ができていない」という課題が明らかになったなら、各ツールの特徴をわかりやすくまとめた資料を提供するといった施策が考えられるでしょう。
顧客の課題・悩みを解消することに加え、顧客が「期待以上」「あったら嬉しい」と感じられるアイデアを出すことができると、他社との差別化が図られ、顧客体験の向上につながります。たくさんの施策やアイデアが出た場合は、売上への影響度や顧客満足度における重要度などの観点から優先順位をつけるとよいでしょう。
カスタマージャーニーマップの失敗を防ぐコツ
時間と手間をかけてカスタマージャーニーマップを作成したのに有効活用できない!という失敗を防ぐためのコツを3つ紹介します。
他部門と協力しながら作成する
BtoB企業は複数の部門が顧客接点を持つため、カスタマージャーニーマップの精度を上げるために、他部門と協力しながら作成しましょう。部門横断のチームを作って取り組むのも一案です。関係者全員で作成することで、視点の偏りを回避するとともに、共通認識を醸成しやすくなるというメリットも得られます。
顧客視点で作成する
カスタマージャーニーマップは、どうしても自社視点になりがちです。顧客視点で作成するためには客観的なデータや顧客の声、実態調査などの情報を揃えてから作成することをおすすめします。
また、顧客視点から行動や感情・思考を整理する上では「共感マップ」のフレームワークを活用すると便利です。共感マップは、次の6つの要素からペルソナの解像度を高める方法です。
- Think and Feel:どんなことを考えているか、どう感じているか
- Say and Do:どんな発言をしているか、どう行動をしているか
- Hear:どんなことを聞いているか、誰の意見を参考にしているか
- See:どんなものを目にしているか、何を見ているか
- Pain:どんなことを苦痛やストレスに感じているか、どんな不満や懸念があるか
- Gain:何を得られるのか、達成したいことは何か
共感マップを作成する際も、事前リサーチなどで得た情報を参考にすること、チームで取り組むなど複数名の視点から作ることで、主観による偏りを防ぎやすくなります。
詳細に作り込みすぎない
リアリティを意識するあまり、ペルソナやマップを詳細に作り込みすぎてしまうと、ターゲットが限定的になったり、施策が狭まったりしてしまうことがあるため注意が必要です。自社の課題抽出や施策検討に必要な粒度になるよう意識することも、使い勝手のよいカスタマージャーニーマップを作成するポイントです。
ブラッシュアップを続ける
カスタマージャーニーマップを作成したら、これをもとにPDCAを回すことが理想です。施策の実行と改善を繰り返していくうちに、成果が伸び悩んだり手詰まりになったりするタイミングがあれば、カスタマージャーニーマップのブラッシュアップをおこないましょう。新しい気づきを得られたりアイデアが生まれたりする可能性があります。常に顧客起点での事業活動ができるようにするためにも、定期的に見直すようにしましょう。
事例:カスタマージャーニーマップの解像度をあげる施策
BtoB企業のマーケティング支援事業を行うシーラベルが、カスタマージャーニーマップを作成した事例をご紹介します。
シーラベルで制作を行うことになったきっかけ
当時、案件創出の接点は経営メンバーの人脈による紹介が多くを占め、積極的なプロモーション活動は実施していませんでした。しかし、事業目標の拡大に伴い、新たな顧客を獲得しなければならなくなったため、どのチャネルに対して、どのような情報を打ち出すべきか整理することになりました。
実施施策1:既存クライアントの商談を振り返る
まず、既存クライアントを20社リストアップし、提案時の状況を振り返りました。「初回訪問」、「提案」、「ベンダー決定」の3つのフェーズに分け、当時の議事録を見返し、クライアントがどのような発言をしていたか確認しました。実際の会社・人物をベースに会話をすると、お客様の顔をイメージしながら具体的な議論ができ、解像度が高まりました。
20社の情報を、各フェーズでの課題と情報収集内容にフォーカスして整理すると、お客様のパターンが3グループ程に集約されることが分かりました。
実施施策2:事例インタビューと併せてヒアリングを実施
次に、解像度をさらに高めるため、3グループから1社ずつピックアップして顧客へヒアリングを実施しました。
「ヒアリングさせてください」と依頼してお客様が構えてしまわないよう、WEBサイトに掲載する事例インタビューと併せてお話を伺いました。お客様の記憶を辿るため、時系列に沿って当時の提案書や議事録の内容を共有しながら進めました。
この結果、「実は、〇〇さんは当初反対していたんだよね」といった、我々が把握していなかった顧客の思考や感情の動きを知ることができました。
実施施策3:市場調査サービスの活用
顧客の数が少ないセグメント層は十分な検証ができなかったため、外部のスポットコンサルティングサービスを活用しました。「大手企業における新規事業立ち上げの責任者を経験された方」という条件で募集したところ、2週間程度で5名の方にインタビューを行うことができました。
外部サービスを活用することで、なかなか調整できないピンポイントのセグメント層の方とスピーディーに日程調整し、ヒアリングを実施することが可能です。
事例:カスタマージャーニーマップから得られたもの
作成したカスタマージャーニーマップを活用し、シーラベルがどのような施策改善に繋げ、成果を得られたのかご紹介します。
マーケティングファネルの選択
カスタマージャーニーマップの分析から、ターゲットの方々は、日常で様々な媒体から積極的に情報収集を行っており、認知から情報収集のフェーズですでに各ベンダーの印象が形成されていることがわかりました。特にウェビナーによる印象が強く残り、問い合わせのきっかけになることが明らかになりました。
- 施策改善ポイント
認知・情報収集フェーズでの露出を増やし、検討前に候補企業の一つとして認識されることに重点を置きました。具体施策としては、数百名規模のオンラインカンファレンスを四半期に1度自社主催で開催しました。 - 効果
カンファレンスでの露出により、他社主催へのイベント登壇のお誘いも受けることが多くなり、露出とリード獲得の機会が大きく増えました。これまで約20件/月だったフォローリード数が、180件/月まで増加しました。
サービスメッセージ・キービジュアルの選択
シーラベルが提供しているサービス、BtoB企業向けマーケティング部代行サービス「マーカス」のターゲットである、マーケティング部門のリソースがなく困っている顧客層は、いかに一緒に伴走支援してもらえそうかという点を重要視していることがわかりました。お客様は、専門性や技術力よりも、対応の柔軟性やコンサルタントとの相性を重視していたのです。
- 施策改善ポイント
サービスのメインビジュアルやトーン&マナーを変更し、初めての方でも相談しやすいようなポップな印象にしました。また、支援するコンサルタントの情報も積極的に掲載し、不安を解消して親しみを感じてもらえる工夫を施しました。 - 効果
WEBサイトからお問い合わせ頂いたリードの商談化率が12%から18%まで向上しました。サービスのメッセージを変更した結果、よりターゲットに合致する方からの問い合わせが増えました。
プロモーションチャネルの選択
カスタマージャーニーマップの分析から、ターゲット企業のマーケティング部門の方々は、WEB上での情報収集だけでなく、オフラインでの交流会や勉強会にも積極的に参加していることがわかりました。マーケ部門の方々はWEB中心の情報収集であるという固定概念を持っていたため、これは新しい気付きでした。
- 施策改善ポイント
オフライン勉強会を毎月開催することにしました。「BtoB成長企業 マーケティング勉強会」と名称を付けて、サービス要素は一切含めず、勉強と交流をメインに実施しました。 - 効果
毎月10数名の方にご参加いただき、少人数で密な交流をすることができました。なかなかアポイントに繋がらなかった方とも直接会話する機会になり、関係構築を深める上で重要なチャネルとなりました。
タッチポイントが複雑化しているBtoB企業こそ有効活用を
顧客体験の向上を経営課題の一つに挙げる企業が増える中、カスタマージャーニーマップを有効なツールとして取り入れる企業が増えています。もともとはBtoC企業において多く活用されてきましたが、ステークホルダーが多くタッチポイントが複雑化しているBtoB企業においても効果的なツールとして認知が広がっています。質の高いカスタマージャーニーマップの作成に本記事が役立てば幸いです。
シーラベルでは、「顧客体験の向上」「カスタマージャーニーマップの作成」にお困りの企業様を支援しています。